Japanese Society of Oral Oncology

理事長ご挨拶

上田 倫弘
(北海道がんセンター 口腔腫瘍外科)

 このたび,第43回日本口腔腫瘍学会総会にて理事長の大役を仰せつかりました。初代清水正嗣先生から9代目理事長となります。大変,光栄に感じるとともに身を引き締めて微力ながら誠意を持って務めさせていただきます。また,桐田元理事長,太田前理事長の後任という多大なプレッシャーがありますが,会員皆様の御協力を仰ぎ,頑張りたいと思います。

 本学会は定款によれば『この法人は,口腔領域に発生する腫瘍の診断と治療及び予防について,研究・解明し,もって医療の進歩普及と国民の福祉の増進に寄与すること』が目的とされております。特に国民の福祉に寄与することは重要で,第一義であると思います。先人の築かれた功績に感謝し,新しい価値観に基づき,いかなる社会情勢になっても対応可能な運営を考えたいと思っております。ここ数年は世界的な新型感染性疾患の流行により,社会通念は変化し,我が国の置かれている状況は非常に厳しいものになっています。特に経済は低下し,海外の医薬品,医療機器の使用が徐々に困難になってきています。さらに,人口減少に拍車がかかり,少子高齢化が更に加速しています。その中で,時代を担う若い学生が外科系診療科を選択せず,国民医療の存続は危機的状況です。口腔・顎顔 面は,摂食,嚥下,発語などの機能や顔面形態に深く関与し,人格や生命活動の根幹となる臓器です。これらの臓器を扱う仕事の重要性と魅力を発信する学会でありたいと思います。
 当学会には口腔癌治療を遂行するために重要な 3 つの柱があります。1 つは口腔がん専門医制度です。当学会では『口腔がん専門医』を認定しています。これまでの専門医にはインセンティブがつくものはほとんどありませんでしたが,口腔がん専門医は,2023 年に承認された光免疫療法施行にあたり,必須の条件となりました。光免疫療法の保険導入時,医師・歯科医師要件を頭頸部外科学会と検討しましたが,会議では専門医申請基準が頭頸部がん専門医試験と同等の厳しいものであると判断されました。同制度導入当初は,厳格な条件に批判もありましたが,申請条件を変更せず施行した先人に感謝しております。この口腔がん専門医制度を大事にするとともに,条件を加減することなく,適正人数達成を目指します。
 2 つ目は,口腔癌取扱い規約です。版を重ね,頭頸部癌取扱い規約や UICC の規約と齟齬のない内容になるように調整が図られ,現在は第 3 版へ改版中です。初版作成により本学会が口腔癌を扱う学会であることを国民に周知することができたことを先人に感謝します。
 3 つ目は,口腔癌診療ガイドラインです。日本口腔外科学会との合同作業で,栗田委員長,鵜澤委員長のもと多くの若い先生の汗で,エビデンスに基づいた素晴らしいガイドラインが昨年改版されました。
 以上の 3 つの柱のもとで,今後は,学会のグローバル化が目標です。IAOO(国際口腔癌学会)の日本誘致に始まり,同じ経済圏にある東アジアの口腔がん治療のコンセンサスを深めたいと思います。また,アジアでの口腔癌治療のリーダーシップが取れるように会員の技術,知識を深め,新技術を開発し,基礎研究に基づくトランスレーショナルスタディーを学会として更に推進したいと思っております。
 最後に,過去の功績に感謝するとともに新しい価値観で新しい何かを創造し,次の世代が安心して研究,診療することが可能な社会になるよう努力します。

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